異例の短期間で誕生したモデル
さてコロナの開発物語だが、新型モデルの誕生には社会的な背景なり事情があります。
ことにクルマの歴史への回想ともなれば、背景となる社会の動静にふれなくては一知半解の結果を招くことになろう。
初代コロナは、そのずんぐりしたスタイルがダルマの連想を呼んだことから、世間では通称ダルマと呼ばれたつただしダルマの名称は本来あいきょうのひびきがあるのに対し、コロナに奉られたそれには、幾分の軽侮の色合いがこめられていた。
その理由は追々と分かってくる。
初代コロナが発売されたのは、昭和32年7月である。
ニューモデルが世に出るには、普通3年から5年の歳月がかかるという。
しかるにコロナの場合、その開発を決定したのは31年7月のこと。
それから10カ月後の32年5月に開幕した第4回全日本自動車ショーで発表、その2ヵ月後に発売という、異例の短期間で誕生したモデルである。
なぜかくも事を急ぐ必要があったのか……。
話はややさかのぼる。
30年1月、トヨタからクラウンがデビューしたとき、日産からはダットサン110型が発売されました。
同時に世に出たこの二つのモデルは、機構、性能、スタイル共に出色のでき栄えとなり、市場に好評で迎えられた。
市場と言っても、わずかな法人需要を除けば大半がタクシー需要に頼った当時である。
タクシー業界には独自の車格区分にもとつく料金規定があり、1500㏄のクラウンは中型料金、860㏄のダットサンー10型は小型料金で営業した。
車格を分ける区分線は、全国的にはおおむね910㏄に置かれたようである。
30年から32年にかけ、世は神武景気から高原景気へと好況を持続する。
タクシーの利用客が増えます。
それにつれてタクシーの増車あるいは新車への入れ替えが全国規模で進行します。
ことに小型料金で営業できるダットサンはよく売れた。
なにより利用客が小型料金のタクシーを好んだからである。
全国のタクシー業界には、それまでの取引関係から強いきずなで結ばれたトヨタ党が多い。
そのトヨタ党からも、小型料金で走れるトヨタ車の開発を要望する声が強まる。
31年、営業車における申型、小型の保有台数比率で、ついに小型が中型を追い抜く状況となる。
事態ここに及んでトヨタ自工としても、このすう勢を放置することはできなくなった。
しかも事は急を要します。
開発から商品化まで、異例の短期間で進行した初代コロナは、かくしてデビューしました。
正式名をコロナST10型と言います。
広く分布するトヨタ党の待望を下地に、先行していたクラウンの評判にも助けられて、ダルマコロナの売れ行きは上々のすべり出しを見せました。
車格面での競合相手はダットサンー12型とルノー日野4CVだが、発売からーヵ月後のコロナのシェアは早くも30%に近づき、『さすがは販売のトヨタ』の実力をいかんなく見せつけました。
『これで小型市場を制するのも時聞の問題…』と、トヨタ陣営は思ったことだろう。
ところが、そうは問屋がおろさなかった。
発売して3ヵ月経つころから、ユーザーの苦情が続出し始めたのです。
原因はいろいろある。
まずは開発を急ぐあまり、すでに生産打切りとなっていたトヨペット・マスターの生産工具、設備生産ライン、部品を多く流用したためにスタイルに新味がな丸車両重量も重く、スピードが出ないうえ、騒音が大きい、などがあげられる。
さらに困ったことは、タクシーの料金体系における内規的な区分線の910㏄を、地域毎のタクシー団体との話し合いで、995㏄のコロナも小型料金車に含め得ると踏んでいた思惑が外れたことである。
コロナはダットサンと同じ4人乗りでありながら、料金面だけが中型車扱いされるというハンデが残った。
最大の痛手はタクシー台数の最も多い東京で、910㏄の区分線を変えられなかったことである。
コロナST10型は明らかに失敗作でした。
開発に時間もかけず、金もかけない間に合わせの急造モデルがヒットしては、それこそ開発に苦心する技術者は立つ瀬がない。
ST10型の失敗は、その意味では自他ともに教訓を残したものと言えようか。
クラウンの健闘があるとはいえ、コロナの不振はトヨタスペースコレクション・カー部門の低迷につながります。
その低迷に追い打ちをかける事態が生じました。
34年8月、日産からブルーバードが発売されたのです。
この年代にあっては、まだスペースコレクション・カー市場のパイは小さい。
パイが小さい故に、車格のちがうモデルどうしの間にも幾分の競合関係が介在しました。
ブルーバード物語はあとでとりあげる機会があろうが、34年の発売の時点で、それは最も魅力のある強いモデルと目された。
みるみるうちに、ブルーバードは他車のシェアを喰った。
そしてこの年の後半に至り、トヨタが昭和30年以来保持し続けたスペースコレクション・カー部門トップの座が日産に移った。
開発したモデルの優劣と言おうか、あるいは当たり外れと言おうか、とにかくそれがまきおこす企業実勢への影響は、けだし甚大なものがある。
ブルーバードは日産にとって文字どおり青い鳥となり、このあとの数年、スペースコレクション・カー市場はあたかも日産独走の観を呈する。
この事態に処して、トヨタは手をこまねいていたわけではない。
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