知名度と販売台数の上昇

スカイラインを市場に雄飛させるには、技術面の先進性だけでことはなりません。

第一にコストの引下げ。

第二にそのためには量産の達成が前提となる。

第三に量産の達成は、大量販売によるしか手はない。

これらのどこから手をつけ好循環をひき出すべきか。

かつてトヨタも、日産も通ったこの道を、いま富士精密工業は歩こうとする。

ときは昭和30年代…。

後発の自動車メーカーにとって、参入、発展の機会が唯一度ほほえんだ年代である。

この当時、荻窪にはまだ抜けるような青い空が広がり、なおだやかな白雲が、悠々去来していたのを思い出します。

世界で自動車工業の勃興を見てから、ほぼ100年に近い。

この間企業の興亡は枚挙にいとまもない数にのぼっている。

企業連合は別として、ふつう強力メーカーが弱小メーカーを吸収した場合、弱小メーカーの生産モデルは、いくばくもなく市場から姿を消すのを常とします。

しかるにスカイライン(グロリアもそうだが)は、日産に吸収後もその存続が図られ、そればかりか、ニッサン・スカイラインになって知名度と販売台数の上昇を見せている。

存続が図られたのは販売店対策としてうなずける話だが、知名度と販売台数の上昇は、宣伝戦略の成功と、性能面での破天荒な改良に因る。

ニッサン・スカイラインとなり、プリンスの文字が車名から消えたのは、昭和43年に発売されたC10モデルからであったと思う。

それからでも、もう20年の歳月が流れ、スカイラインの初代、2代に直接かかわった人々は、大方は職場を変え、あるいは去った。

国産のスペースコレクション・カーで、スカイラインほど数多くの神話を生み、話題の対象となったくるまはすくない。

もちろん神話は宣伝戦略の成功に負うところも多いが、サーキットの英雄としてのそれは、スカイライン自身が実力でかちとったものです。

宣伝に負うものでも、それが効いて人々のくらしのなかに定着してしまえば、それはもう文化です。

早い話が、『ケンとメリーの』を染めたTシャツは57万枚も売れ、その売れ行きのすさまじさに、ニセものまで横行したといいます。

たかがTシャツのことだが、若者がそれを争って買い求め、よろこんで身に着ける現象を、何と説明したらよいでしょう。

くりかえすが、これはもう文化である。

肝心なことは、スカイライン文化を独り歩きさせないことだ。

スカイラインはスタイル、性能、デザインの何であれ、常にハードの面で魅力を備え、ケンメリの次にいかなるソフトが打ち出されてくるか、大衆に期待感を持続させます。

つまりスカイライン文化を自在に操る思考と姿勢を、送り手側も持続します。

スカイライン文化を楽しもうとする人たちに対する、これは義務でもある。

アメリカやヨーロッパには、名車と呼ばれるたくさんのモデルがあります。

そして大衆がそれを大切にし、それを保存することを自分たちの誇りとします。

機械文明や歴史保存に対する民族性の違いと言ってしまえばそれまでだが、そろそろ日本にも、これが日本の名車と言えるものを、みずから育てる風潮をつくり出したいものである。

スカイラインは、モータリゼーションの不毛の年代に誕生し、関係する多くの人々の努力に守られて、その不毛の年代を生きのびました。

その車齢を数えれば満30歳。

後発メーカーの手になるモデルとしては、よくぞここまでの感もあります。

国産のモデルのなかでは、まれに見るほどの強烈なファン層を持ち、またスカイラインをテーマとする刊行書の数は他銘柄のそれより最も多い。

さしあたって日本の名車候補の筆・頭にあげてよい資格を備えているように思う。

個人的なことで恐縮だが、富士精密工業時代の団伊能社長に、筆者は公私とりまぜて親しく仕える年月を過ごした。

温和な風貌と紳士の風格は今なお瞼の裏に焼きつき、なつかしい思いは歳月を越えてつのるものがある。

自動車業界に吹き荒れた時代の嵐のなかに、富士精密工業の企業名は消えました。

団社長もまた幽明を隔ててすでに久しい。

芳蘭散って知る無常の世だが、この章は今は亡き団社長の墓標に、供える意図を秘めて綴った手向けの花である。

温顔をほころばせて『小磯君、出来がよくないね』と叱られることは承知の上だが、無性にそうしたい思いが、初めから筆者をとらえた。

冒頭にかかげた『スカイラインの歌』も、その意図に発することを諒解して頂ければ幸いである。

日本のスペースコレクション・カーメーカーは9社。

その生産モデルは、基本銘柄だけでも78種に達します。

これらのなかには、名車に推したいモデルも次々に出てくるでしょう。

読者と共に、希望と期待をこめて、名車遍歴の旅を続けたいものです。

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