名車は生きる「スペースコレクション・カ」
スペースコレクション・カーは国際商品である。
その商品としての国際性の故に、昭和20年代の国産スペースコレクション・カーは、常に国際比較の面から批判の姐上にのせられた。
ユーザーのなっとくするスペースコレクション・カーが作れないなら、スペースコレクション・カーはすべて外車の輸入でまかない、国内生産は打ち切るべしなどという暴論が、国会で大臣の口からとび出したのもこの年代のことである。
この暴論に腹を立て、よし、それなら世界に通用するスペースコレクション・カーを作ってやろう、とひそかに闘志を燃やした自動車業界人は、たくさんいたに違いない。
そのひとりに三鷹プリンス(富士精密と合併する以前のプリンスを便宜上こう呼ぶ)の常務取締役外山保がいる。
外山はかつて一群の技術者を引き連れ、立川飛行機をとび出したときの中心人物で三鷹プリンスの実力者です。
また、その後の人生を、スカイラインと共に自動車ひと筋に貫いた人でもある。
外山は常々、スペースコレクション・カーは自動車メーカーの看板となる商品である、スペースコレクション・カーを持たぬ自動車メーカーは、自動車メーカーの名に価しない、と断言していた。
それだけスペースコレクション・カー作りに寄せる情熱はたいへんなもので、スペースコレクション・カーに社運を賭けることを、意に介さぬ一面がありました。
昭和20年代はおろか、30年代を通じても、国産スペースコレクション・カーは生産規模の狭少からくるコスト高にあえぎ、いきおい発売価格は割高についた。
しかも割高な価格で売ってなおスペースコレクション・カーメーカーのほとんどは、企業としての採算をトラックの増産でカバーしなければならなかった。
幸い昭和30年代は、歴史に残る経済の成長と、好況の持続に恵まれた年代である。
なかでも小型トラックはよく売れて、スペースコレクション・カーの非採算をおぎないました。
こうした一般情勢を前にして、これにどう対応するかは経営トップの判断による。
この場合、外車にも負けぬスペースコレクション・カーを開発して市場を制し、生産を伸ばしてコストを下げ、もってスペースコレクション・カー工業の確立を図る積極策がある。
もう一つはモータリゼーションの進展を見るまではトラックの生産に重点を置き、まずは経営体質の強化に専念する消極策(対スペースコレクション・カーにおける)も考えられる。
三鷹プリンスは前者を採った。
上(かみ)これを令すれば下(しも)これに従います。
ことに三鷹プリンスは外山一家の観もあり、外山保を中心に、能登周三、山之内正一、田中次郎、日村卓也等の技術陣が、立川飛行機以来の同志的結合を守っている。
のちの日産時代に至り、スカイライン神話の中心となる桜井真一郎も、昭和27年10月三鷹プリンスに入社、設計課長日村卓也のもとに配属されて、初代スカイラインを生み出す研究陣に加わった。
かくて昭和28年5月、新型スペースコレクション・カー(これがスカイラインとなる)の開発を内容とする技術懇談会が開かれ、研究着手が本決まりとなりました。
この段階では三鷹と荻窪はまだ別々の会社であり、したがってエンジンを受持つ荻窪は、この研究に関与していません。
自動車工場は、絶えず現行販売車の改良につながる研究に追われる。
少ない技術スタッフで、現行車と将来車の研究を同時進行さぜるのは、容易なことではなかったろう。
昭和29年4月、荻窪と三鷹の合併が実現し、設計部門は荻窪へ移りました。
翌5月、早くも第一次基礎計画を完了、次いで翌30年1月には第二次基礎計画がなり、設計の着手となります。
設計に当たって苦心が払われたのは、乗り心地、操縦性、居住性、走行性能及び装備品等の基礎部門は当然として、最も創意と苦心を要したのがスタイリングならびにデザインの面である。
スカイラインの構造は新生富士精密工業にふさわしく、日本では例のないバックボーントレー型シャシやドディオン式アクスルの採用となり、スカイラインに寄せる同社のなみなみならぬ意欲をのぞかせた。
作業は順調に進行し、30年8月主要部分の設計を完了。
31年の5月には早くも試作1号車完成。
1日700㎞に及ぶ走行試験が開始される。
新しい構造だけに、安全性と耐久力を重視し、発売弐でに延べ10万㎞の走行実験を重ねたという。
こうして得たデータから、生産車の決定までに改良に次ぐ改良が加えられ、32年3月、ついに生産1号車の完成を迎えた。
研究着手からまる4年、完成に至る開発スタッフの、文字どおり寝食を忘れての努力の結晶である。
最終工程の組立ラインから走り出す完成車に見入る外山保の眼に、そして付きしたがう技術者たちの眼に、キラリと光るものが宿った。
しかし、外山は合併後の富士精密工業で、常務取締役.自動車事業所長の重責にあります。
陣頭指揮で新機構のスカイラインを生み出したとはいえ、その完成の感傷にひたっているひまはない。
部下の労をねぎらいつつも、彼の頭はもう次の展開へ向かって回転を始める。