第1回技術打ち合わせ会議とスペースコレクション・カー

越えて26年2月、たま側と富士精密側の第1回技術打ち合わせ会議が開かれ、これを皮切りに富士精密に熔けるガソリンエンジンの試作研究が本格化する。

そうこうするうち同年4月に入り、それまで興業銀行が全株を保有していた富士精密の株式を、石橋正二郎がそっくり興銀から買い取った。

この時点で富士精密は、たま電気自動車同様石橋資本の系列に組みこまれ、その月のうちに、会長に石橋正二郎が就任、社長に石橋資本を代表して団伊能が就任しました。

その会長就任の日、石橋正二郎は荻窪工場の大食堂に600人余の全従業員を集め、『自動車工業に進出することが、自分の40年来の夢であった』と演説している。

タイヤ業界を制覇した自信が、やがては自動車業界をも、の事業欲に燃え移っていたものでしょうか。

26年11月、富士精密の試作エンジンが完成し、性能試験が開始されました。

このエンジンはFG4A型と呼ばれ、水冷4サイクル、OHV、4気筒、総排気量1484㏄、圧縮比珊、最高出力45馬力/4000回転、重量がやや重い点を除けば、きわめて完成度の高い、優秀なエンジンでした。

同じ11月、たま電気自動車は社名から電気の文宇を抜いた『たま自動車㈱』と改称、ガソリン車の発売に備えます。

翌12月、荻窪に歩調を合わせて設計を進めたトラックのシャシとボディを製作、これに荻窪から供給されるFG4A型エンジンを搭載、ここにトラックー号車がまず完成しまし。

翌27年2月、同様にしてセダン型スペースコレクション・カーも完成し、両社の協力になるガソリン車が、市場にまみえる体制がようやくととのいました。

ところで車名だが、世の親たちがわが子の名前に迷うのと同じで、簡単には決まらないものです。

たま自動車では最初、ごく常識的にローマ字で『TAMA』とすることに内定しました。

それがオーナー石橋正二郎への思惑もあって『ブリヂストン』に変更され、さらに発表会直前に『プリンス』に三転決定を見たという。

27年11月に皇太子殿下の立太子礼が執行されることがすでに発表されていたことから、それにちなんでの命名でした。

27年3月7日から9日の3日間、東京・京橋のブリヂストン本社ビルー階ショールームで、戦後国産初の1500㏄をセールスポイントに、プリンス号セダン、トラック、ライトバン、ピックアップの発表会が開催されました。

この時点で国産の小型スペースコレクション・カーとしてはトヨタ、日産、オオタに次ぐ4番目のメーカーならびにモデルの誕生です。

発表会の第1日と2日は雨と時ならぬ雪にたたられたが、新規メーカーの出現は世間の関心を呼びます。

会場が東京のどまんなかであったことも幸いして、発表会は大盛況の観を呈しました。

プリンス号の新規参入はこうして始まりました。

出てゆく市場には、トヨタ、日産の2大勢力が、戦前から築いた伝統と経験と知名度を武器に立ちはだかっています。

プリンスはその市場に参入はしたものの、頼りはわずかに技術面での先進性だけです。

高額の商品を買う場合、世間一般には知名度の高いものにペイに見合う安心感を求めます。

プリンスの前途が波平らかなはずもなかった。

発売から8ヵ月経った27年11月、たま自動車は社名をプリンス自動車工業と改称。

商品名と会社名を合致させることで知名度の浸透を図りました。

越えて29年2月、販売活動強化のためにプリンス自動車販売㈱を設立、販売活動の効率的な運営をめざす。

さらに2ヵ月後の29年4月、生産体制の合理化を目的に、富士精密工業とプリンス自工の合併が実現し、新社名に富士精密工業を継承したことは冒頭に記したとおりです。

かかるうちにも昭和30年1月、トヨタはクラウン、日産はダットサンー10型スペースコレクション・カーを発売。

これらは国際水準のスペースコレクション・カーとして市場に好評をもって迎えられ、2社による寡占化の傾向をいっそう強めた。

もとよりプリンスの業績が年を追って伸びたのは事実です。

だがトヨタ、日産の伸びはそれを上まわり、自動車工業に顕著に作用する規模の利益の面で、プリンスは常に先発メーカーの後じんを拝することを余儀なくされました。

プリンスの悲運の遠因はここにあります。

昭和30年代は、自動車業界が迫りくる貿易・為替自由化の実施に備えて、生き残りを賭けた激甚な企業戦争を展開した年代である。

規模の利益を手中にもつトヨタ、日産に対して、それでもプリンスはまっこうから善戦した。

行く手に待つのは資本の非情性だが、この段階でそれを予見したものはいない。

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